惜しむ心

髪が、ひとすじ抜け落ちて、左手の甲の上にかすかな感触を残し、その骸を横たえた

近頃の体調のせいなのか、あるいは永年にわたって大量に摂取してきたエストロゲンによる体質の変化によるものなのか、はたまた寄る年波というモノのせいなのか、ここ最近、ワタシもとうとう髪が抜けるようになった

まぁ、ハゲってほどに抜け落ちてしまっているワケではないのだケド、それにしても以前に比べて抜け毛の量は増えた気がする

そういえば鼻ったらしの頃、TVでは「カロヤン」という育毛剤のCMをやっていた↓

<カロヤンCM 1978-1980>

「抜けはじめてわかる 髪はなが~いトモダチ」っていうフレーズは、髪という漢字を覚える際、非常に役立ったものだ

長 友
 彡

↑みたいな、テキトーな配置で覚えてた時もあったケドw

おっさんやってた頃は、「ハゲたらハゲたで、そうなったら日替わりで趣向を凝らしたズラでもかぶって、チビッコたちを喜ばせてやらぁ」くらいに豪語していたのだケド、最近はそういうふざけた心境からはちょっとばかり遠のいてきている

なんというのだろう

ひとことで言えば、「物哀しい」というコトなのだろうか

そういう心境を招来させるのはきっと、抜けた落ちた髪の「長さ」のせいだ

おっさんやってる頃の髪なんてのは、せいぜい4~5cm程度のモノだった

だから、「べつにどうってコトねぇゎな 抜けたってしばらくすりゃあまた生えてくらぁ」くらいに思えたのだろう

そういう心境だから、髪をいたわるなんてコトには、いっさいお構いなしだった

ハードジェルで固めて、毛根ギリギリのトコロまでガッチガチのプラ板みたいにしたものだw

いま、ワタシの頭皮から抜け落ちる髪の長さは、おおよそ40~50cmほどの長さがある

ざっと計算しても、一ヶ月に伸びるのがおよそ1cmとして、40~50ヶ月… つまり3年半~4年以上お付き合いをした髪が、いまハラリハラリと抜け落ちているということになる

それも、ただ伸ばしていただけの髪ではない

手をかけてキレイに育て、少しずつ少しずつ長さを揃えながら伸ばし続けてきたものだ

40~50cmの髪が抜け落ちていくというコトは、それだけの時間を共に過ごし手入れし続けてきた「己の欠片」が、己が身から剥がれ落ち、「ワタシから去って行く」というコトだ

物哀しくないハズがない

4年前、といえば2009年

2009年の5月~6月といえば、ちょうどこんなありさまだった頃だ

あの頃、ワタシのアタマにひっそりと芽吹いたモノが、その後ずっとワタシと同じ時を過ごし、シャンプーにも、ドライヤーにも、コテにも、酸性雨にも、放射性物質にも、ヒトビトから受ける様々な嘲笑や蔑視、暴力にも負けずにワタシの頭皮にしがみつき続け、しかしながらそれがとうとう武運つたなく力尽き、いまようやく抜け落ちた・・・ というコトだ

嬉しいコトも可笑しいコトも、ロクになかった… 半狂乱どころか狂乱の7年間だったが、その半分以上の年月のあいだ、陰気臭いワタシにそっと寄り添い、共に過ごした戦友がいま静かに逝った・・・ というコトだ

親や兄弟ですらワタシを見限り、すっかり放逐したままだというのに、こいつときたら、そんなワタシとずっと一緒にいてくれたのだ

そいつが逝った

そいつらが次々と、後を追うように逝く

これからも、加速度をつけたかの様にどんどん逝くコトだろう

なんだ、つまりそういうコトか

生きるというコトはつまり、「何かを得て、その得た全てを失う過程」というコトか

結局ぜんぶ失くしてしまうというコトか

睦みあったつれあいも、愛おしんだヒトビトも、努力して得た能力も、障害があるワケでもない肌や骨を切り削ってまで得ようとした美しさも、我が身の欠片がワタシから剥がれ落ちて逝くのと同様に、いずれワタシの下から去り離れ、そのすべて失くしてしまうというコトか

きっとそのうち、この歯も抜けるのだろう

きっとそのうち、この視力も失うのだろう

きっとそのうち、この聴力も失うのだろう

きっとそのうち、この脳も舌もその機能を欠損し、屁のような理屈すら弁ずるコト能わぬ時がくるのだろう

5年前のあの日、愛おしい息子も逝ってしまった

だからきっと、愛おしい娘も、やがて向こうに逝ってしまうのだろう

ぜんぶ失くすのだ

「いつまでも、ずっと一緒」と誓い合った愛おしいあのヒトが、ワタシを置いて手の届かぬ遠くへと行ってしまったように

どうせ最期はひとりなのだ

いまのうちからひとりでいたって、別に悪いこともない

どうせ最期は失くすのだ

いまのうちからできるだけ失くしておいたって、別に悪いコトもない

なまじ幸せな瞬間など持たぬほうが良い

そういうモノを持ってしまえば、それを失う時には尚更に哀しい

この世に生じて以来、手に入れてきたあらゆるモノを、これから先のいくばくかの月日のなかで、全て喪失してゆくのだという極めて当たり前の事実に、早くワタシは慣れなければならない

どうというほどのコトでもない

季節はいま、若草萌ゆる初夏だというのに、ワタシはいま、人生の斜陽の季節にさしかかったというだけのコトなのだ

それだけのコトなのだ

若く、可能性に溢れ、まだ充分に輝き得た季節は、いつの間にかワタシの気付かぬうちに終わってしまっていた、というだけのコトなのだ

それだけのコトなのだ

若さを失うというコトは、その分だけ死に接近したというコトなのだ

ただそれだけのコトなのだ

そうしてやがて秋が過ぎ、冬が来て、あたかもようやく訪れた救済のように、己の終わりの時を迎えるのだろう

その時、誰ひとり待つ人とてない寂しい向こう岸に、ワタシは一人で渡らなければならない

その練習を、いましているのだ

そのための、ほんのささやかな練習として、髪がひとすじ抜け落ちて見せたのだろう

あの子の命日に寄せて・・・

<森田童子:G線上にひとり>

コメント

  1. なな より:

    なな が 時々いるのだ(;o;) なな も みんな 老いるのだ晴れ でも 脳内補完という手があるよ。 なな は墓場に入る瞬間まで 絵 の中ので 若さを保つぞ! 「絵のタッチふる!!」って言われるかもだけどね。

  2. >なな
    ぃょう、なな♪
    ご無沙汰だぜー
    たしかに「脳内で補完」というのも、ひとつのテだよなぁ
    オレの場合は記事にもあるとおり、「感情を可能な限り滅殺する」ってゆう方向なんだろうな
    脳内補完も感情の滅殺も、どっちも事態に臨む際の「心理的な処理の仕方」でしかない
    そうゆう意味では、キミとオレのどっちのやりくちも手法としては対等なんだろうね
    オレはいま、欲、哀しみ、怒り、喜びといった感情を日干しにして、カラカラのヒモノみたいにしようとしてる
    そんなコトをいったいドコまでやれるのかも判らないし、何の根拠も自信もないんだケドさ、いまオレは、自分の心中を占める「惜しむ心」ってヤツを、なんとかして棄て去る訓練の真っ最中なんだ
    それは何も髪だけのことじゃなくてね、いまかろうじて自分が持っているモノ… それら全てを失うのを「怖れない」ための訓練なんだょ
    ↓へつづく

  3. ↑のつづき
    父も母も、いまこの瞬間に逝ってもおかしくはない
    弟も、そろそろ逝くだろう
    娘も、もう16歳の老猫だからそれほど長くはないだろう
    毎週、エストロゲンとプラセンタは過剰なほどに注入してるケド、それにだって限界はあるだろう
    身体の自由もそろそろきかなくなって、さすがに10cmのヒールは履けなくなるだろうw
    数年前、かなりのウデに至ったと思えた組込制御系のスキルも、今はすっかり鈍らせちまった
    これからまたしばらくの月日が過ぎ、最期の最期の瞬間が訪れる時… それまでに構築した関わりも能力も全てを失くす時、それでも自分の精神の平衡を保っていられる自信が、今のオレにはコレっぱかしもないんだ
    どう考えても今のオレでは、なんらかの泣き言を吐き出しちまいそうな気配がきわめて濃厚なんだ
    オレは根っからの寂しがりの悲観論者だからね
    んでも、だからって、そんな状況下でもぜったいに「寂しい」なんてコトバを小声でも言うもんかって、虚勢を張ってもいるんだょ
    「寂しい」という言葉を、決して吐かないためのささやかな訓練
    それが今の、オレのテーマなんだろう
    まったく、険しく厳しく制約の大きい先行きだゎなぁ
    どうなるコトやらだねぇ…^^;

  4. なな より:

    無理しないで、「寂しい」って叫んでも いいんだよ(^.^) 叫んじゃえ!!

  5. >なな
    寂しいのはさ、みんな一緒だょ
    みんな、誰だって、いつか全てにさよならを告げなきゃならないんだもんね
    また逆に、誰かからさよならを告げられて、誰もそれを引き止めるコトはできないよね
    死に行くヒトにいくら声を張り上げて「逝くな」と叫んでも、決して引き止めるコトはできないもんね
    死や別離というコトに対して、オレたちは誰でも、平等に無力な存在なんだ
    そうゆう意味じゃ、誰だって、本当は誰とも繋がっていない寂しい存在なんじゃないかな
    だから、「寂しい」なんてゆう言葉は、クチに出すほどの価値もない「当たり前のコト」なんだと思うな
    でも、その、当たり前のコトをさ、「当たり前のコトなんだから…」って平然と飲み下せるほど、オレはオトナになれていないんだ
    特にオレは、自分が関わったあらゆる存在に対して妙に執着するタイプだからね
    そうゆうタイプのヤツってのは、どうにも別れ際が薄らみっともなくてね、ネチっこくなりがちなんだw
    いいトシこいてね、ぜんぜん修行が足りてないんだょ
    だからね、そうゆうザマを少しはマシに変えるための修行を今からしなくちゃならないんだ
    いつか、オレから去ってゆくあらゆる存在
    いつか、オレが別れを告げねばならないあらゆる存在
    いつか、必ずやってくるそうゆう諸々の存在との別離をね、どうすりゃ平然と飲み下せるだろうかってね、苦心惨憺してるんだ
    泣いたって、わめいたって、不貞腐れてたって、いじけてたって、居直ってたって、来るときには必ず来るからね、それが来た時の「覚悟」ってヤツをどうにかして腹の中に練り上げようと思ってる
    きっと今は、そんな場所に立ってるんだろうな…

  6. なな より:

    ななも別れや寂しさに関して相当往生際が悪い(>_<) 修行しないといけない…

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