ワレワレは、生きているのではなく生かされているのだ
とかなんとか、なんでもありがたがるワケ知り顔のヒトがよく言うのだ
カミサマだの、運命だの、自然の恵みだの、ヨノナカだの、ヒトサマだのによって生かされているのだ、とか言うのだ
思いあがっているんじゃない、みたいな喩えの時にもよく使われる
いゃまったく、御説ごもっとも
ありがたいコトこのうえない
カミサマさまさま
運命さまさま
自然の恵みさまさま
ヨノナカさまさま
ヒトサマさまさま
七重の膝を八重に折り、衷心よりの感謝感謝であります
そういった、マコトにもってありがたいコトこの上ない「なんとかサマ」といった連中は、極めて勝手かつ気まぐれにワレワレを生かしてくださっているので、ワレワレを殺すコトに関しても極めて勝手かつ気まぐれだ
嬰児に死病を与え、息の根を止めるコトも厭わない
地震だの津波だの大事故だのを起こし、下衆な輩も無辜の善人も一緒くたにして大量虐殺するコトもなんら躊躇わない
どんなモノでもありがたがる方々が拝跪して已まぬそんなにありがたい「なんとかサマ」は、なにゆえ無辜の嬰児を生かしてくれず、その息の根を止めたのか
そこいらへんのコトを、ちゃんと納得のいくように説明してはくれませんかね、ありがたがりの方々
そういったコトは、何もヒトに限ったことではない
無力で矮小で、他に喰われるためだけに生まれてきたような生命が、この星には満ち溢れている
毎年6~7月、南極水域から南アフリカ東海岸沿い、インド洋にかけて膨大なイワシの魚群による奔流が生じる
10億匹以上にものぼるイワシの奔流は、サーディン・ランと呼ばれる
この季節、海中プランクトンが豊富になるインド洋に向かい、ソコで交尾・産卵するための大移動だ
このイワシの魚群を狙い、イルカやクジラ、大型魚類、海棲鳥類、そして近在の漁師どもが大挙して来襲する
イワシは、己の身を守るためのなんらの爪牙も持たない
捕まれば、ただ喰われるしかない、非力で儚い存在なのだ
だから群れを生し、ひたすらに目的地に向けて泳ぐ
隣を泳いでいるヤツが喰われてくれれば、そのぶんだけ己が生き延びる確率が増すからだ
迫り来る捕食者どもの群れをかいくぐり、どうにか適地にたどり着けた何割かが初志を達し、達し終えると間もなくその生を終える
交尾の際のオスの発した精液で、一帯の海面は真っ白に濁り、その本懐を遂げた証が衛星軌道上からも確認できるほどになるという
そのイワシでさえ、エサとなる海棲プランクトンの豊富な場所を求めてソコにやってきた
そのプランクトンは、植物性プランクトンを喰うコトで増えるのだ
サーディン・ランとは、そういった阿鼻叫喚の地獄絵図の総称と言って良い
とすれば、それは縮図だ
このセカイというヤツの縮図だ
イワシは、「なんとかサマ」によって生かされており、同時に殺されているのだ
イワシはワレワレと同じだ
無力で、脆弱で、卑小で、儚い
ワレワレ衆生と同じだ
逃げ惑うしか術のない、ただ喰われるしかないイワシどもは、それでも今日を生き永らえたならば、「なんとかサマ」をありがたがったりするのだろうか
たとえばこんなセリフ↓を吐くヤツがいたとする
まぁの、今日は気分がええから、とりあえずオマエんとこの娘、生かしといたるわ
んでも、明日はわからんで
なんせワシ、気分屋さけの
ええか、ワシのご機嫌を損なわんようにの、今日もよぉけ気ぃつこて生きや
ドコからオマエんコト見とるか分からんけの
見られてへん思て、ワシにツバ吐くようなマネしたらどうなるか分かっとるの
オマエんとこの娘だけやないで
オマエの大事な母ちゃんも、家も、仕事場も、ぜぇんぶメチャメチャにしたるさけの
ええか、感謝のココロ
感謝のココロやで
そいつを片時も忘れんときや
人質をとって無理難題を押し付けてくる凶悪誘拐犯とかテロリストとか、そういう類の連中が吐きそうなセリフだ
「なんとかサマ」をありがたがるというのはつまり、そういう種類の連中をありがたがるコトと同じなのではないのか
人質の娘を今日も殺さないでいてくれて本当にありがとうと、感謝するというコトなのではないのか
生かされているというコトをありがたがるというのは、そういう種類のコトではないのか
7年前、そのありがたい「なんとかサマ」は、なんらの罪をも犯していないはずの息子を生かしてはくれなかった
「なんとかサマ」というヤツは、まったくの気まぐれで、まもなく11歳になるはずだった大事な息子を殺した
今日はそういう日だ
誰が感謝などするものか
コメント